地球研ニュースレター12月号で「環境問題の最近の動向」の講演内容を紹介したが、その中で北欧諸国の炭素税について触れた部分があり、導入の経緯、実際の税率、軽減措置等についてこの紙面 で補足したい。
1991年1月から炭素税、硫黄税、環境負荷金を導入、加えて1992年1月からNOXに対する課徴金を導入した。炭素税の目的はCO2排出量 の削減であるため、炭素税導入国の中で最も高い税率が設定された。1992年秋には、化石燃料による発電に炭素税を課税し(導入は1994年)、石油および石炭火力には、炭素税に加えて硫黄税も課税すべきであると提案された。1993年1月の税制改革では炭素税率の引き上げが行われたが、産業部門に対しては炭素税率が引き下げされると共に、非エネルギー用燃料に対するエネルギー税が撤廃され、他部門への炭素税増税とガソリン税増税により補填されることになった。これは、他の北欧諸国が自国産業に対して炭素税の軽減措置を実施したことによるものと考えられる。
全体の税バランスとして、炭素税を導入する代わりにエネルギー税を半減させているため、ネットの税額は炭素税率から予想される程大きなものではない。1993年に入り、産業部分のエネルギー税を軽減したことは、CO2排出効果 を弱める方向に働くと思われる。課税のウエートが産業部門から他部門へ移ったが、民生部門の中心は水力、原子力による電力利用であり、炭素税は輸送部門の化石燃料消費をねらい打ちする色彩 が強い。
1991年1月に炭素税を導入した。他の炭素税導入国と異なり、エネルギーの炭素排出量 に比例した税率が設定された。炭素税導入の流れとしては税制改革(所得税減税を行う一方で間接税を強化する)の下で進められ、エネルギー価格上昇に伴う省エネ効果 を目的としている。ただ、最近の免税・軽減措置の動きは、自国産業の国際競争力維持のためと考えられ、グローバルな環境保全を考慮した炭素課税から輸送用燃料中心のエネルギー環境税制へと変質していることを示している。またノルウエーは石油の産油国であるため、沖合い天然ガスの課税にみられるように高い税率の炭素税の下では、石油、ガス産業がノルウエーを避けて他国へ投資するのではないかという懸念が出てきている。
1992年5月に炭素税を導入した。当初3月の予定が2か月遅れた理由は、EC委員会がデンマーク案の企業交付助成金について、EC内の自由競争に対して障害になることを懸念して検討を加えたためである。導入後の動きとしては、免税扱いの産業用燃料消費に対して、1993年1月から50%の税額還付のもとに炭素税が導入されたことである。この国の炭素税の特徴は、これまで課税されていなかった産業の燃料消費に対して課税されることと、電力の課税が石炭、重油、天然ガス等の発電燃料に課税されるのではなく、電力の最終消費を対象にしていることである。
炭素税の効果を見ると、免税・還付制度が多くの分野(特に産業分野)に適用され、ガソリン、天然ガスに対しても課税されておらず、CO2排出量 の抑制効果は期待薄とみられる。また、電力に課税しても燃料代替のインパクトは乏しいため、再生エネルギーで発電すれば、発電業者に補助金を出すといった仕組みも取り入れている。したがって、炭素税導入の狙いは、価格効果 による直接の需要抑制よりもむしろ税収を特定対策の補助金に回すことにある。
1990年1月に、化石燃料対策の炭素関連税、および輸送燃料対象の環境税を税制改革による所得税減収の税収減を補填する1つの手段として導入した。導入時期はヨーロッパで最も早い。この国の炭素税は、燃焼用消費の鉱油、天然ガス、石炭、ピートに対して各燃料の炭素含有量 に応じた課税であり、これと自動車用燃料に負荷的に課せられた消費税を併せて「環境損失税」と呼んでいる。環境損失税は特定部門に対する減税措置がないだけ炭素税本来の趣旨に合致しているが、税率が低いために化石燃料の消費を抑制する効果 は少ないとみられている。自動車燃料に対する環境損失税は、燃料消費への課税に比べてはるかに大きい。また環境関連の課徴金として、石油製品には環境損失税のほかに石油汚染料が課されている。
1993年に炭素税率の大幅な改定に加えて「新電力消費税」が導入された。炭素税の改定と新電力消費税の導入は、EC委員会が提案しているエネルギー・炭素税と同等の対策パッケージになるという見方も出ている。現在のところ、環境損失税の導入によってエネルギー消費が減少したという報告は出ていない。